犬の問い
どうも県太郎です。
12時になるとお昼を食べて歯を磨きます。
そのあとお気に入りの本を読み返してお昼休憩は終わりです。
昼一番はお客さんのリクエスト(希望図書)をPCに入力していきます。
最近はドラマの影響でロボット工学に関する本のリクエストが多くあがります。
僕はあまり興味がありませんが。
黄ばんだWindows98は今日もなかなか言うことを聞いてくれません。
もういい加減新しいPCを買ってもいいでしょう。自治体の皆様、宜しくお願いします。
ふと気付くと受付にはそこそこの行列ができていました。
すぐさま助太刀しなくては。お待ちのお客様こちらへどうぞ。
貸出コーナーのお客さんを捌きながら横目で見ると、行列の原因がわかりました。
隣の窓口には大きな眼鏡をかけた困り顔のフジさんがいました。
フジさんはよく来こられる若い女性の方で、もちろんあだ名です。
いつも前髪を後ろに持っていく(リーゼントっぽい?)髪型で、そこに見事な富士額がそびえます。
だからフジさん、と心の中で命名しました。
フジさんは来る日も来る日も図書館、古書店、歴史博物館、大学などを巡り、ある一冊の書籍を探求しているそうです。
ある日のこと、受付に座る僕にフジさんは小さな紙を差し出しました。
僕は何のことかもわからず、そこに書かれた一文を小さく読み上げました。
犬の問い、取り払う手も、お留守する、表裏、針と糸の縫い
引きちぎられた形跡の紙片、古い活版印刷の文字。
「この本と同じものを探しています。同じ本を見つけて祖父のお墓参りに持っていきたいのです、祖父は俳句や詩を好んでいましたので、その類の書籍の一文だと思うのですが」
訥々と静かに語るその声がとても綺麗だったことを覚えています。
あの日から半年以上は経っているのですが、当然何の手掛かりもないままです。
今日もフジさんはそのきれいな顔の眉間に小さな皺を浮かべていました。
おでこを出す髪型に名前はあるのかな。
そんなことを考えながら、気づけばもう夕方です。
ぼうっとしている一日がすぐに終わってしまいます。
でもぼうっとしてなくてもすぐに終わるんだと思います。
それが良いことなのか悪いことなのか、わかりません。
そんな一日が明日もやってきます。